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“ただもの”ではない川内康範の「情念」

 川内康範の森進一に対する“怒り”は一向に収まる気配がない。川内がなぜここまで森を嫌いになったのかは、その説明を頑に公にしないため、芸能記者たちが川内を追いかけ、川内が杖を振り上げて追い払うというシーンがテレビに映し出されたこともある。しかし森に『おふくろさん』などの川内の作品は「歌わせない」と言い続けている。

 川内は“情念の作家”として歌謡曲の詩だけでなく、小説も数多くモノしている。それだけでなく、政治的な発言も多く、かつては経済誌などの“巻頭言”にも健筆をふるっていた。

 月刊誌『宝石』などの目次に“仕置人”も川内と名を並べたこともあるが、川内に“仕置人”が親しくさせていただくきっかけとなったのは“仕置人”が執筆を依頼されて書いた『国会ジャーナル』(90・10・15)に川内も書いたからだった。


1992年8月号の『宝石』目次


“仕置人”の出版パーティーでスピーチする川内康範

 同誌に川内が書いたのは<ジョージ・ブッシュ大統領にお尋ねする・イラクが狂気でアメリカが正気だとの実証を示せ>というタイトル。
 その書き出しは<初めにお断りしておきます。この文章は日本国民の総意を代表したものではなく、あくまで私個人と、私に親しくしてくれる少数の人々の思考感情を率直に申し上げるものです。>というもの。
 91年1月17日の多国籍軍のイラク空爆は、第2次大戦の戦勝5カ国が理事国になっている「国連安保理」の決議によって「1月15日までにイラクがクエートから撤退しなければ多国籍軍は攻撃する」という恫喝によるもの。
 アメリカは第2次大戦の“戦勝国”。それも半世紀も前の“戦勝国”が、160数カ国の代弁者であり正義である筈がない。

 こうしたアメリカの“思い上がり”に対し、アメリカ大統領に「直訴状」を突きつけた川内の見識は、“イラクの狂気”を偏向的に報道していたアメリカ追随のわが国のマスコミとは違って、“作家の眠”としての「情念」のほどばしりを感じたものだった。

 この文章は長文なので、1部分だけ抜すいすると――。
 <・・・なぜ、イラクとクエートの、アラブ民族同士で解決可能なはずの問題を、一つ間違えば、戦火の惨禍となるやも知れぬ御国を中心とした多国籍軍を必要としているのか?また、イラクが和平を受託したのちも、米軍はサウジアラビアに進駐をつづけるという、論理的な裏付けが、私のようなものには理解できないのです。>

<・・・イスラエルはパレスチナを占領し、いまだ国連勧告を無視してゴラン高原に進駐しているではありませんか。アラブ各国を放浪しているパレスチナ難民の実状を見れば、イラクのクエート侵攻のみをヒットラー的侵略として決めつけ、御国の軍事力を持ってこれを制圧したとしても、それでアラブ湾岸諸国の平和は維持され、世界の人々が、再び公平に原油を入手できるという保証が、どこにあるのでしょうか?>

 <あなたはよもや、御国がベトナム戦争に介入して味わった苦汁はお忘れではないでしょう。アラブは、グレナダ、パナマとは宗教や歴史の重さにおいて大きなちがいがあります。そして世界、、なかんずく、アジアに散在するイスラム教徒と信頼関係は、キリスト教徒と比肩できるものです。イラクのフセイン大統領は、いちはやく聖地の護持者であると、イスラムの大儀を不磨の大典として位置づけました。これは遠い昔に、ヨーロッパで、キリスト教徒がアラブ遠征を行なった折の覇権行為に対して構築したバリケードなのです。>

 そして川内はこう締めくくった。<・・・ブッシュ大統領閣下、重ねてお願いいたします。もし御国の議会が、日本駐留の米国の存在価値が無に等しいとの判断をお持ちなら、引き上げたらいいのです。そういう心の準備をするのに、日本人はそれほど狼狽はしないでしょう。>

 スペースの都合で、かなり割愛しているが、川内の平和への切実な願いが、行間に溢れていて、まさに「情念」の吐露である。

 この川内の文章に“我が意を得たり”と“仕置人”の発行していた『新政経情報』(91・2・1)で取り上げたところ川内から手紙をいただき、それ以後何かとご指導いただき、“仕置人”の出版パーティーで“情念”のスピーチをいただいたこともある。

 田中角栄、福田赳夫、竹下登や小佐野賢次、児玉誉志夫などとも親交を深めてきた川内は、よく上京してきた。

 ある時、青森県三沢から上京してきた川内から電話があり、“いなにわうどん”を2人で食べないかと誘われ、芝浦のニューサテライトホテルへ行くと、「草野君、竹下登はそんなに悪い奴かい」と聞かれた。“仕置人”は「悪いですよ」と答えたが、川内はすぐに話題をそらせた。


“仕置人”の出版パーティーにて
左から『国会タイムズ』会長 五味武、作家の大下英治、
日新報道社長 遠藤留治 と談笑する川内康範




“仕置人”の発行していた『新政経情報』(91・2・1)で川内康範を取り上げた


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